

昨年、全国区でも数少ない八選を果たした山梨市長の古屋俊一郎(73)は、「現金で買収してでも票をもぎとろうという甲州選挙の伝統は、まだ生きていますよ」と苦笑する。国家、自治体選挙のたびに、現金買収の運動員が摘発される激しい甲州選挙。せまい山峡の中で、濃い血縁、地縁。それに、利益集団の利害がからみ、主義、主張より人と人との争いが、甲州人を熱狂させてきた。
例えば県知事選。初の県人、民間人知事天野久(故人)は、保革合同のミコシに乗って登場した。四十二年、自民党の天野五選を阻んだのは、やはり保革合同勢力にかつがれた代議士田辺国男(69)。その田辺は五十四年、社会党と代議士金丸信派の保革連合が推した現知事望月幸明(58)に敗れ、知事の座を去った。当選九回の田中派の大幹部金丸は、天野久の政治人脈に連なり、天野は少年時代、田辺の生家でデッチ奉公をしている。
建設相、国土庁長官、防衛庁長官を歴任し、四期、自民党の国対委員長を務めた金丸は、「足して二で割る政治家」。蔵相・竹下登の長女が金丸の長男の妻という間柄だが、「竹下とオレと足して二で割ればちょうどいいわ」と金丸の弁。親しい友人に小佐野賢治の名を挙げ、「努力家だ。カネはあっち(彼岸)まで持っていくもんじゃあねえだ、と話している」。
知事選では社会党と手を組み、野党への柔軟さが買われ国会対策を切り回した。半面、「日本戦略研究センター」を主宰者として、国防問題タカ派という振幅のおおきさ。「お互いに立場立場がある。独裁はいかん。至上命題さ」。そして、「中曽根支持を田中派が決める時は、日本一中曽根を嫌いな金丸がかつぐんだ、派のため、田中のため、とぶった。世の中皮肉なもんで、中曽根支持のまとめ役をした」。「田中角栄への義理を果たす」といい切り、無冠の太夫を自称する金丸の事務所に、陳情客がひきも切らない。最近、糖尿病で断酒をした。(敬称略)資料;朝日新聞



