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ちょっくらよっていけし  村上博靱

甲州人国記(38)

甲州人国記  “ブドウ園の交響詩” ⑱-1   昭和58年                            

「野のひびきは調律され 一房ごとに 音楽を蜜封した」 ブドウの園丁詩人を名乗る勝沼町の曽根崎保太郎(68)は、詩集『ぶどうの四季』で<出荷の支度>をこう歌う。自分でブドウ作りをし、共同で観光ブドウ園「甲斐路クラブ」経営する曽根崎は、見知らぬ人の唇の中で、ブドウの粒が、限りない交響詩となれと祈るのだ。いま全国一の生産量を誇るブドウと桃は、既に江戸時代後期、幕府に献上されたと記録に残っている。ブドウに寄せる甲州人の思いは深い。
  旧制日川中出身の曽根崎の後輩に、詩人の杉田巌(57)や石原武(52)。杉田が初代理事長となった山梨詩人懇談会には、七十人の会員。文教大教授の石原は日本現在詩人会常任理事で、詩誌『地球』の編集長。石原ら後進を育てたのが山梨詩人協会長内田義弘(76)。長く高校教諭、同校長を努め、二十一校の校歌を作る。甲府工業高校の教頭も務めた。近年、笛吹川畔に詩碑が建った。内田の詩も風土に根ざし「笛吹川の詩人」の名。
 甲府在住の詩人小林富士夫(65)は、近著に『蛇笏百景』。万緑賞受賞の俳人加賀美子麗(72)は、甲府で会社社長。『文学と歴史』主宰の作家今川徳蔵(63)、農民文学の山田多賀市(75)郷土作家の中村鬼十郎(72)も古いブドウ樹のような年輪を見せている。
 甲州ワインマップも作られているほどで、ワイン醸造企業は八十八社。全国醸造量の六割を占める。明治十二年、フランス留学から帰国した二青年が、甲州ブドウから五百四十リットルのワインを作ったのが本格的事始め。一宮町の甲州園は、明治十八年創業を誇る甲府サドヤ醸造場は、明治年間の倒産ブドウ酒会社を引き継ぎ大正六年の創業。世界中の八十四種を集め、ワイン造りの十余品種を精選、栽培した会長今井友之助(72)の研究が、サドヤワインの名を高めた。(敬称略)資料;朝日新聞                          
曾根崎  今井

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