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甲州人国記(40)

甲州人国記  “若アユと突貫小僧” ⑲-1   昭和58年
                               
  水温二十八度。甲府スイミングクラブのプールで、英和高三年輿水秀香の十八歳の体が、水に溶け、水を切る。「水に入ると魚になったような感じです」。強化合宿の時は一日二万メートル、学校のある日は七千メートル。168センチ、六十二キロ。山口百恵と薬師丸ひろ子のフアンという色白の少女は、ひたすら泳ぐ。
山国の少女が昨年夏、四百メートル個人メドレーで4分58秒98の記録を出し、日本女性として初めて5分の壁を破った時、「ヒデカがんばった」と甲府はわいた。昨秋のアジア大会では、5分2秒台の記録で一位。今春、英和短大国文科へ進む秀香はロサンゼルス・オリンピックの時は二十歳になる。
『謀殺・下山事件』の著書がある元朝日新聞記者、富士見育ちの矢田喜美雄(70)が、早稲田時代、走り高跳び五位に入賞したベルリン・オリンピックから、もう半年近い。社会部記者として、体当たりで戦後の暗黒史に挑んだ矢田は、モノ書きとして健在だ。
秀香のコーチ古屋哲男は、世界選抜の名ウイング、ラグビーの藤原優(29)を育てた日川高でラグビーをした。「水泳は専門家じゃないけど、ラグビーの鍛え方と同じ基礎訓練をします。秀香はついてきますよ」と古屋。
一宮町育ちで早稲田ラグビーの黄金時代を築いた藤原は、いま丸紅自動車第一部の商社員。「日川高にはいい選手がいるのに、全国決勝まで進出できず残念です」。秀香はカラっ風を突いて、毎日九キロの道を自転車でプールに通う。小さな子の面倒をよくみるお姉さんだ。
(敬称略)資料;朝日新聞                       
輿水     佐野

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